私は先日ついに、長期外国滞在における最難関の1つをクリアしました。 何だと思います? 散髪です。
まずは店を選ばなくちゃいけません。 の店は大抵男女両方を受け付けるのでその点は問題ないんですけど、 気取った店・庶民的な店・前衛的な店・店員の髪型がぶっ飛んでいる店 といろいろあります。いつも を大音量でかけているのでてっきりバーだと思っていたら 実は床屋だった、なんて店まであります。 さらに東洋人の髪を扱い慣れているかも問題です。 特に私の髪はばりばりのごわごわで、 人の美容師・理容師も扱いにくいと言うくらいですからなおさらです。 もしかしたら中には人種的な偏見を持っている人もいるかもしれません。 そう考えると結構心配になってくるのですが、 30過ぎた男がヘアスタイルで悩むのも何ですし (大抵の人は抜け毛を気にする年齢ですもんね)、 「髪型が原因で んだ奴はいない」 と割り切ることにしました。
まず店ですが、これは の近くにある店に決めました。 ウィンドーに価格表が張り出してあって、しかもでかでかと「 20%引」と書いてあったので、まあ気楽な感じの店だろうと思ったんです。 相手の店なら留学生も来るだろうし、留学生の中には東洋人もいるでしょうから、 その点も安心です。それに一度店の前を通ったとき、客の髪を している最中の店員と が合ったのですが、これが親切そうなおじさんだったのも気に入りました。
さて当日、いよいよ意を決して店に向かいます。ガラスの を押して店内に入り、まずは「ボンジュール」と挨拶します (ヨーロッパ大陸では店に入ったとき、 客も店員もお互いに「こんにちは」と挨拶する習慣のようです。 ウィーンでもそうでした)。 まずは例のおじさんに向かって「予約は必要ですか?」と軽くジャブを入れ、 相手の反応をうかがいます。おじさんは って答えてくれましたが、この 語が 。 仕方ないので「 語は良く話せないので、もう一度お願いします」と頼みます。あ〜あ、 に来て以来、この台詞を口にするのは何回目でしょう。 するとおじさん、今度はゆっくりと 「別に必要ないけど、今はこっちのムッシューがいるから、 もう少し後で来てもらえますか? えーと、4時でどうでしょう?」 と言います。今度は聞き取れました。 「OKです。それじゃ4時にまた来ます。さようなら」 と言って一度引き下がります。戦いはまだ始ったばかりです。
取り合えず に戻り、 を気にしながら仕事をします。そわそわしているせいでなかなかはかどりません。 いよいよ4時です。 の前を離れ、再び店に向かいます。 を て「ボンジュール」。が、店の中には誰もいません。 、どうなっているんだ? 4時というのは聞き間違いだったのか? と思ったところへ店の奥からおじさん登場です。ほっ。
鏡の前に座ったところで「どんな感じにしましょう?」と聞かれます。 ここが一番の難所です。 語でさえも伝えるのが面倒なことを、 語で言わなくてはなりません。こうなると注文は、 自分の好みを伝えることよりも、文章の簡単さの方が優先される ようになります。まあいいさ、髪型で んだやつはいない。 「全体に1.5cmから2cmくらい切って下さい。 横は、えーと、 が出るくらい」 という意味のことを何とか伝えます。おじさんはうんうんとうなずいて、 「こんな感じ?」 と自分の のあたりを示します。こっちもうんうんとうなずいて、 「そうそう、そんな感じ」 と答えます。 身振り手振りの偉大さをしみじみ感じます。 「シャンプーは?」 「いや、 だけで」 「ウイ、ムッシュー」 が始まりました。
結論から言うと、このおじさんは最初の印象通り、なかなかいい人でした。 の床屋さんと同じように、 しながらいろいろ話しかけてきて、こっちの下手な 語ももちゃんと聞いてくれます。
「で、お客さん、お国はどちら?」
「です」
「ああ、 ですか。 一度行きたいと思ってるんですよねえ。グルノーブルは初めて?」
「ええ。 も初めてです」
「 さん?」
「いえ、 です」
「」
「の です。すぐそこの に来ています」
「あ、 ですか。へえ。で、ここにはどのくらい滞在の予定ですか?」
という感じで会話と が進みます。よしよし、なかなかいい感じじゃないか。
「グルノーブルにも 料理店があるんですよ。お客さん、もう行ってみました?」
「いや、まだです」
「すぐ近くですよ。でも内装は 的じゃありません。普通の みたいな感じです」
リラックスしてきたせいで、 語がだんだん良く聞き取れるようになってきます。
「私は以前 に行ったことがあるんですけどね、そこで入った 料理店は良かったなあ。 的な内装に 的なテーブルで、床に座るんですよ。で、 ちゃんとゲイシャがいて料理を運んで来るんです」
(おじさん、それは芸者じゃなくて仲居さんと言うんだよ) 「でも 料理店って高いでしょ?」
「まあ、それなりにはね」
なんてことをやっているうちに、 が終わりました。通常よりもちょっと短めで、そのため髪がはねていますけど、 そこはジェルでおさえます。
「どんなもんでしょ?」
「結構です(あ〜あ、後でムースかジェル買わなきゃ)」
あとは を払うだけです。掲示してある価格表を覗いて、値段を確認します。
「えーと、111フランですよね?」
「いえいえ、シャンプーなしですから、90フランです」
「あ、そうですか」
チーン、ガシャガシャ。
「ありがとうございました。またどうぞ。それからよいご滞在を!」
最後は までしてくれました。 ジェルで がちょっとベタベタしてましたけど。 やっぱり外人慣れしている人だったようです。 よかったよかった。